【ツシマウラボシシジミとは】

 日本では長崎県対馬北部にのみ分布する開帳2cmほどの小さなシジミチョウです。近年生息数が急激に減少しており、2017年1月に環境省が定める種の保存法において、「国内希少野生動植物種」に指定されました。
 

種の情報

ツシマウラボシシジミ
学名:Pithecops fulgens tsushimanus
 
レッドリストなどの指定

  • 環境省 絶滅危惧ⅠA類(CR)(第4次レッドリスト)
  • 長崎県 絶滅危惧ⅠA類(CR)
  • 国内希少野生動植物種
  • 対馬市天然記念物
ツシマウラボシシジミ(成虫)

減少の理由

 本種は沢沿いのスギ林や広葉樹林の林床に生息していました。程よい光が差し込むこのような場所には、幼虫の食草となるヌスビトハギやフジカンゾウなどのマメ科植物が多く生えており、本種の生息に適した環境でした。かつては数も多く、当たり前のように見られている普通種でした。
 
 しかし、2000年代後半になるとシカが増加。林床の植物を食害していき、本種の食草も減少しました。また植林地も管理が適切に行われないなど、林床が暗くなり、生息環境が悪化していきました。
 これらの原因によって島内でも分布地が大きく縮小。一時はほとんどの生息地で個体群が消滅し、絶滅寸前の状態となっていました。

シカの食害にあった林床(左側)

【生物園とツシマウラボシシジミ】

 
 2012年にチョウの保全団体が生息地の対馬市で本格的な生息状況調査を実施し、絶滅に瀕していることが判明しました。研究者を含めて強い危機感を持ち、早急な対策が必要となりました。
 
 翌年2013年、保全団体から本種の繁殖試験ができないか、生物園に相談がありました。足立区生物園にはチョウ類の飼育実績と、程よい明るさで温暖な気候を再現した「大温室」がありました。この大温室が本種の繁殖行動を再現するのに適していました。
 
 その年に保全団体と連携して繁殖実験を実施、初めて飼育施設での交尾と採卵に成功しました。
 
 2014年からは正式に環境省から「生息域外保全推進モデル事業」への協力要請がありました。生息地からの緊急避難や、飼育技術開発を行い、年に3度の累代飼育に成功しました。
 
その後、2017年1月には本種が国内希少野生動植物に指定され、種の保存法で保護されるようになりました。さらに「モデル事業」から「保護増殖事業」へと事業が移行しました。
 
 生物園での飼育・繁殖で「交尾に適した環境」「室内での採卵方法」「幼虫の飼育」など徐々に飼育方法が解明されていきました。
 
同年2017年にはこの技術や活動が高く評価され、公益社団法人日本動物園水族館協会が規定する「繁殖賞」を受賞。昆虫類としては「繁殖賞」創設以来初の受賞という栄誉でした。

【生物園での飼育】

 生物園では春(5月)、夏(7月)、秋(9月)の年3化で本種の飼育を行っています。

交配

 大温室で成虫を交配をさせます。はじめにオスを大温室内に放してなわばりを張らせます。その後、オスに飼育員がメスを近づけて交尾を促し、交尾が済んだらメスを回収します。目標の数になるまで一匹づつこの作業を繰り返します。
 天候が悪いとオスが飛びにくかったりするのと、個体によってメスになかなか近づかなかったりすることもあり、簡単ではありません。チョウと対話しながら行う根気がいる作業です。

採卵

 交尾済みのメスを食草となるヌスビトハギの花や新芽を入れてた飼育ケースへ移動します。ケース内は明るくして光による刺激で採卵を促し、メスの吸蜜のために花を入れ、霧吹きで成虫の餌である蜜を吹きかけます。
 やがてメスが食草に小さな卵を産むので、卵が産み付けられた葉を切り分けて1個ずつ分けます。

幼虫飼育

幼虫の個別飼育
 本種の幼虫は共食いの習性が強く、多頭飼育を行うことができません。飼育の際は1匹ずつ小さいケースにいれて飼うことで共食いを防いでいます。多いときにはケースが500個以上になることもありますが、一つ一つ幼虫の健康状態と餌の状況を確認して丁寧に飼育しています。
 
幼虫の餌
 幼虫はヌスビトハギを食草としていますが、部位を季節によって変えています。葉を与える場合は柔らかな新芽を選びます。春から初夏にかけての主食です。
 7月から9月になると花が咲きます。柔らかな花びらも幼虫の好物なので、開花の時期は花も与えます。さらに花が散り、なったまだ青い実も餌になります。
 これらの餌を植物の生長に合わせて選びながら与えていきます。

越冬

 3化目(秋)の幼虫は終齢幼虫で越冬します。初齢幼虫の段階から日長や温度を調整して飼育することで、越冬幼虫にします。越冬状態になったら湿度の安定した植木鉢などに入れて屋外にて管理し、3月中旬の暖かくなった時に室内へ取り込み、蛹化と羽化を行います。

【発表・受賞】

生物園ではこれまでに本種の飼育や展示について研究発表を行ってきました。また本種の生息域外保全などの取り組みについて各所で賞をいただくことができました。


2014年昆虫園研究 vol.15[足立区生物園におけるツシマウラボシシジミの域外保全の協力について]
2016年昆虫園研究 vol.17[足立区生物園におけるツシマウラボシシジミの繁殖作業の知見と課題について]
2016年当園の本種に対する取り組みが生物多様性アクション大賞に入賞
2017年日本動物園水族館協会にて本種の繁殖実績から繁殖賞を受賞
    繁殖賞創設以来昆虫類での受賞ははじめて
2018年昆虫園研究 vol.19[ツシマウラボシシジミ一般公開の取り組みについて]
2018年 全国昆虫施設連絡協議会(※)にて上記の発表が矢島賞を受賞

【ツシマウラボシシジミの特別公開】

生物園では域外保全の余剰個体を年に3回、特別公開という形で来園者の皆様に展示しています。
大温室内で自然下のように飛び周る様子をチョウと同じ空間でご覧頂くことができます。
 

展示場所

足立区生物園 大温室
※見学には別途入園料が必要です。
 

公開時期

秋開催:2022年9月18日(日)-9月23日(金)
春開催:2023年4月下旬-5月上旬
夏開催:2023年7月中旬
※休園日を除く
時 間:9:30-15:00

大温室内で展示している様子

展示生体の個体数

ツシマウラボシシジミの特別公開中は展示個体を大温室内に放蝶致します。放蝶予定の個体数に関しましては、前日に足立区生物園公式twitterにてお知らせいたしますので、事前にご確認ください。
 

識別マーキング

ツシマウラボシシジミの飼育・実験のため、展示個体の翅にマーキングをしている場合がございます。
予めご了承ください。  

翅へのマーキング

注意事項

【撮影時について】
・大温室内では三脚、一脚の使用はできません。
・フラッシュを使用した撮影はできません。
・写真や動画の撮影、ご使用は個人利用の場合のみ可能です。
・商業目的の撮影に関しては事前申請が必要です。予めご連絡ください。
 
【国内希少野生動植物種について】
本種は環境省により「国内希少野生動植物種」に指定されている希少種です。以下の行為は法律により処罰される場合がありますのでご注意ください。
・本種の捕獲もしくは傷つける行為
・本種の生体もしくは死骸を持ち去る行為